「……まさか、あんた、光男さんか? いや、まさかな」
男は細い目を一段と細めてニヤニヤ笑った。奇妙な男だ。素性が判らない。
今日は休日だろうか。それとも毎日が休日だろうか。
昨日の新聞を読んでいる男。
太陽の下にいるが、太陽を遮るように小さく丸まり、新聞にだけ目を向けている。話しかけてきたのが不思議なくらいだ。相手を選んで話しかけているのだろうか。
世捨て人のようなそうでないような男。
幾分かの割合で、懺悔を望んでいたが、実際は望んでいない自分がいる。今は、この隣の男が非番の刑事でないことを望んでいる。
「僕が読んでたこの新聞、これ今日の新聞なんですけど、よかったらどうぞ。ああ、殺人未遂事件の犯人なんですけど、計画的で精神の喪失はなかったようです」
新聞を男に手渡し、ベンチを後にした。
「あ、兄ちゃん、ちょっと」
男の声がした。今なら、彼が時効を止められる。
了