旧堺港界わい

Keishin Honda

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 開いたドアからは中年男が三人次々に降りてきた。ため息をついて、受話器を戻した瞬間、最後に女がひとり笑いながら降りてきた。
「だからダメなんとちゃいますか」
 棘のある声だ。男のひとりが女を振り返りながら歩を進めている。
「じゃ、野村くん、明日頼んどくわ」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れさん」
 女が外に出たのを見届け後を追った。
――あの女だ。
 身なりに釣り合うほど、実年齢は若くはない顔つきだった。
 玄関口で上司と別れ、歩き始めた。人通りはない。繁華街へ出てしまえば、機会を失ってしまう。
 焦りから足早に駆け寄った。女は少し気配を感じたように振り返った。がそのとき、すでに後方から突進と同時に理髪鋏を突き立てていた。反動で女は地面に伏した。何やら声を上げていたが、頭が真っ白になり、鋏を握り締めたまま、ひたすら真っ直ぐ走った。

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