旧堺港界わい

Keishin Honda

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 そのふたりは野村ではない。野村はまだ事務所にいる。
 大きく息を吐き、受話器を一旦本体に戻した。壁の向こう側は一階のテナントが入っているはずだが、出入り口が見当たらない。
 深閑としている。遠くに道路を過ぎる車の音が聞こえる程度だった。
 エレベータの開閉の音がその位置を告げる。しばらく一階に留まっていたが、またすぐに上に呼ばれた。七階まで上がり続けた。人を載せる程度の間があり、六階に下り、やがて五階で一時停止した。心拍が大きく打った。五階から誰かを連れてくる。アメリカ屋の誰かに違いない。
 耳から受話器がずり落ちるほどに、気持ちが表示に向かった。
 動き始めると一定間隔で階下に下りてきた。もう誰も載せない。
 表示が一階を示す寸前に、受話器を耳にしっかりと当て、少し顔を伏せた。

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