旧堺港界わい

Keishin Honda

   ※カテゴリーのタイトル別に1から内容が続いています。

43

 ドアが開いた。スーツの男がひとり乗っていた。視線が合うことが、気まずく思えた。スーツの男はそのまま、玄関を出て行った。 再びエレベータは上階へ向かった。五階に止まった。しばらく表示が止まっていた。
 オペレータたちが留めているように思えた。そわそわし始め、手持ち無沙汰にまた公衆電話の受話器を上げた。
 エレベータが下りてきた。受話器を耳に当て、話す振りをしながら、目線は表示を追っていた。
 開いたドアから若い女がふたり降りてきた。どちらかが野村であろうか。
 気を取られて受話器が少し耳から離れたとき、女たちの会話が聞こえた。
「野村さんは一緒じゃないの? 珍しく残業?」
「いつも率先してオンタイムに帰るのに」
 ふたりは辺りも気にせず足早に出て行った。

 

当サイトに掲載の記事・写真・図表など転載を禁止します。
Copyright (c) 2020 KSHD All Rights Reserved.