旧堺港界わい

Keishin Honda

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 その時、小さな犬の甲高い鳴き声がした。すぐに男の足元に駆け寄ってきた。飼い主がリードを放してしまったのだろう、長く曳きづっている。洋服を着たおしゃれな仔犬だ。
 男が片手で相手をしようとしたそのとき、飼い主の女が走り寄ってきて、リードを素早く手にし、引っ張り戻した。そして、犬を抱き上げて、怪訝そうに走り去っていった。
 不快な顔をした。犬に触れて欲しくないような慌てぶりだった。
 その見てくれが世間からそう見られている。実際のところ、この男は世捨て人なのだろうか。
「気の毒やな。野村、殺されるわ。絶対、殺される。せやけど、そんなんで、殺されてたらエライことやで。世の中にはごろごろしとる。そうやろ? どうしようもないことが山ほどある。右の耳から左の耳や。関わったらアカン。災いが降りかかる。損するだけや。見て見ん振りが一番」
――この男は、警察とは縁がない。

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