「アホやな、カワシマ……。余計なこと言いよって。アメリカにおることにとしいたらよかったのに」
隣の男は舌打ちをした。完全に物語に入り込んだ観客だった。オペレータに同情している。
「鎌かけられたんやな。かなわん客に捕まったな」
この男は、罵られても衝動で人を殺めることのない、分別のある普通の人間だ。加害者に感情移入することはない。
しかし、分別のある普通人であったとしても、必ずしも正義感があるとは限らない。現場に居合わせても、傍観者に紛れるだけの人間かもしれない。見て見ぬ振りをする。望んで世の中と関わらずに生きているのだ。目前で起こっていることも、現実とは受け入れない。警察にも通報しない。