アメリカの育毛剤に対して、後に持つ興味をまだ持ち合わせていない頃のこと、アメリカ屋がどんな会社であるのか、ましてその返送先が何処であるのかなど、大して関心がなかった。アメリカに送り返す手間を考えると苦痛に思いつつ、カスタマーサービスに電話をすると、国内で尚且つ全額アメリカ屋が負担するということにほっとした程度のことだった。記憶はそこまでだった。
――カスタマーサービスに直接聞くしかない。
掛けたばかりであったから、気づかれないようにしなければ、と反射的に思った。野村でなければいい。オペレータは何人かいる。あの女と話さなければいい。野村という女、あの女の声ならまだ記憶にある。第一声で聞き分けられるだろうか。もし曖昧であれば、無言で切ってしまえばいい。
――名乗らず住所だけを聞き出す。