「光男、お客さん」
母親は眉を顰めながら、受話器を差し出した。
『育毛剤、まだかな? もうすぐなくなりそうやねんけど。早くしてくれへんかったら禿げてしまう』
「あ、すいません。確認してみます」
電話を切って、在庫を確認した。一箱も残っていなかった。
「光男」
また母親の声がした。今度は店からだ。
「八百屋のおじさん、来てはるよ」
慌てて店に向かうと、八百屋の主が笑顔で立っていた。
「光っちゃん、おっちゃんな、抜け毛減ってる気がするねん。あの育毛剤、継続しようと思って」
月日の過ぎるのは早い。
「もう残り少ないねんけど、また三本貰える?」
主にも効果が現れたようだ。