旧堺港界わい

Keishin Honda

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 その翌日から、このちょっとした視覚的変化が、八百屋の主の口コミで商店街に広がった。そして、八百屋の主の如く、この育毛剤を欲しがった。顔見知った隣組たちを想像しただけでも、頭皮が寂しい男たちの顔がすぐに浮かんだ。それが、やがて話したこともないような店にまで広がり、近所に同じ悩みを抱える人間の意外な多さに驚きを覚えた。
 ノートに名前と電話番号を書き込んだ。商品は自分が使用している5%の三本セットを取り寄せた。一ヶ月で一本を使用し、三ヶ月。初めての者が経過を確認できる程良い量なのだろう。効果があれば継続する、そうでなければ中止する。それ以前に中止しなければならない症状が現れるかもしれない。
 十日ほどで八百屋の主の三本セットが届いた。手渡すと、主は目を爛々と輝かせた。期待に想像を膨らませているのだろう。目前に成功例がある。
 それでもパッケージを見ると一瞬、表情が曇った。
「うわぁ、英語やな、さっぱりや」
 日本製でないことに不安を感じる。最初はそうだ。しかし、そんなことで怯んでいては、産毛は生えない。
「光っちゃん、よう生える使い方教えて」
 怯みはしたが、使用拒否はしない。やっぱり頭髪への欲望は消えてはいない。

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