旧堺港界わい

Keishin Honda

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 その育毛剤は、当時、2%と5%の二種類販売されていた。成分であるミノキシジルの量のパーセンテージだ。出回っているのは5%。量が多いほうが効果があると考えるのが道理だ。しかし、当然、副作用もつきまとう。多少頭皮が痒くても赤く被れても我慢した。刺激の強さに、健在している髪が抜けてしまう恐怖にも耐えた。使い始めて三ヶ月。
ミノキシジル……。
 奇妙な響きだったが、一筋の光にも思えた。血管拡張剤のひとつで、高血圧の経口薬としてのみに用いられていた。しかしその副作用として、全身の多毛症を引き起こすことから、頭皮に対しての外用薬として臨床実験が実施され、脱毛症に有効であると発表された。アメリカは何という成分を見つけ出したのだ。
「こんにちは」
 近所の八百屋の主が散髪にやってきた。目が合う度、将来を見ているようで落胆してしまう。もう髪の毛は周囲にしか残っていない。それだけ光っていても、頭髪への欲求は消えることはない。悩みも永遠に尽きない。八百屋の主は、生え始めた産毛に興味津々だ。
「光っちゃん、ホンマに生えてきたんか?」
 八百屋の主のこんな真剣な表情をかつて見たことがあっただろうか。
「おっちゃんも、その育毛剤欲しいな」
 当然そう思うだろう。

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