何をやってもついていない。無性に何かを蹴り付けたい衝動に駆られた。ミレニアムに浮かれる気が知れない。
「光男、お父さんが横の毛、切ってくれるって。今お客さんおれへんから、来なさい」
母親が店と住まいの間から顔を出した。ふさふさの父親は、髪の毛が少ないくらいでいじけるなと言うが、その髪の毛がないことにこんなにも人生をどん底に陥れる。
「おい、生えてきたんちゃうか」
父親が頭頂部を見て言った。
「そう言えば、抜け毛が減ってる気が……」
育毛剤が効いてきたのか、鏡を通して父親の表情を伺った。
アメリカ産の強力な育毛剤があると聞き、インターネットで隈なく調べた。そして半信半疑のまま、どの通販会社よりも安価なアメリカ屋に注文した。