旧堺港界わい

Keishin Honda

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 偏見について考えると限がない。頭髪が薄いのは遺伝だろう。カツラを被っても被らなくても、就職の面接中に視線が集中するのは、一回や二回ではない。話していても言葉が途切れ、観察するように見つめているのだ。奇妙な間が流れて、結局、後日電話で不採用を下される。不採用の理由を、「頭髪が薄いせいだ」と言った会社は当然にない。
「光男、光男、電話。アメリカ屋さんから」
 母親の甲高い声がした。ノタノタと台所に歩いていくと、もう一言付け加えられた。
「さっさと出なさい。そんなボサッとしてるから、面接落ちるねん」
 母親は不機嫌そうに店に出て行った。面接で落ちるのは、三十という年齢でも、三流大学出のせいでもない。すべてはこの頭のせいだ。リストラもこれに原因があるに違いないのだ。
 長く反り返った額を掻きながら電話に出ると、前日、インターネット通販で注文した育毛剤の会社だった。直接話すのを避けるため、受注の連絡はEメールを希望したが、メールアドレスを間違えて記入したために、電話で確認された。自身のミスの不愉快さをぶつける相手はいない。

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