「その程度のことで殺されてたら、この世に生存者がおれへんようになる」
見てくれの割にしっかりした物言いだった。しかし、どちらかと言えばただの野次だ。ギャンブルの帰りに飲み屋で一杯、世間話といった感じだ。
こんな事件に至っては、被害者側に立って物事を論じる方がいい。加害者に感情移入させると、話が過激になりがちだ。本心はどうであれ、心の中にある限り、思想の自由は絶対的に護られる。
「ありえへん、絶対、ありえへん」
男は何度も繰り返した。加害者の犯行理由に納得がいかないのだ。
踵を持ち上げたとき、磨り減ってなくなりかけている靴の裏底が見えた。無精ひげは、もはや無精の域を超えている。皮膚が汚れに染まっている。少し異臭もする。
携帯電話は持っているのだろうか。
家はあるのだろうか。洋服は今着用しているもの以外にもっているのか。
「なぁ、兄ちゃん、そう思えへんか? ありえへん」