「刺したらアカン、刺したら。なぁ」
男の口調から、その小さな殺人事件のことではなく、やはり殺人未遂事件の話をしているというのがすぐに理解できた。昨日の三面欄でも、その殺人未遂事件が見開き一面だった。
「方言が汚い」と罵られたことに腹を立て、殺人未遂を犯した男の事件である。「だから、あの地域のヤツは柄が悪い」という地域差別に発展したが、加害者は「だから」という言葉が許せなかったと証言した。
ベンチで隣り合わせた男は、そんなことで殺そうとする奴はいないと啜り笑った。
「いるかも知れませんよ」
適当に答えた。昼休みはまだ半分残っていたが、この話に費やさなければならないことはない。
男は一瞬表情を止めたが、すぐに声を上げて笑った。五十前後の年齢だろうか、無精加減で老けて見える。