旧堺港界わい

Keishin Honda

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 公園のベンチで偶然隣り合わせた男も、新聞を読んでいた。食い入るように、見開きに顔を埋めている。
 それほど夢中になる記事があるのだろうか。番組表の配置を見ると同じ社の新聞であった。三面記事欄の中央辺りならば、ここ数日、世間を騒然とさせている殺人未遂事件の記事だ。
 横目に様子を伺っていると、男は新聞を遠ざけは近づけ、何やらぶつぶつ呟いている。
 開いているのかそうでないのか、細い目を瞬きもさせず、その記事に向けている。大きな汚れが斑点になっているジャンパー、黒いTシャツに黒いGパン。豊かな髪の毛はぼさぼさで、無精ひげ。もう太陽は一番高いところまで来ているというのに、この男だけは日曜日の朝のようだった。
 変色して磨り減った帆布のトートバッグを肩から提げたまま、じっと座っている。持ち手が長いせいか、袋の部分がベンチにうな垂れている。何も入っていないように薄っぺらい。鞄底には穴を塞ぐようにガムテープが貼られている。

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