夕暮れの海は、穏やかに揺れていた。夕日の赤が水面を這っている。嵐はまるで嘘のようだった。
遠海は浜辺に座り、遥か向こうの水平線を見つめていた。
「お父さん、お母さんは、……海に帰ったのよね?」
遠海が静かに唇を動かしたとき、父親は娘の若い頬を見つめた。
「お前は、あのときの母さんにそっくりだ」
遠海は、隣りにしゃがんだ父の動きを肌で感じていた。
「海里くんも帰ってしまうかも知れない」
そう呟いた少女の瞳は悲しみよりむしろ未来を見つめているようだった。
父と娘は、数年ぶりに同じ時間を過ごしていた。
そのとき、砂利を踏みしめる音が近づいてきたのに、徹が先に振りかえり、立ちあがった。