旧堺港界わい

Keishin Honda

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 十八年近く育ててきた愛しい孫を目にした老女はすでに暗示していたように、皺が深い顔に努めて笑みを浮かべた。
 老女が小さな彼の頬に手をやると、彼の口元が笑った。
「おばあちゃん、ありがと……」
 海里は瞳を閉じ、必死に呼吸をしていた。そして徐々に徐々に安らかな息遣いに変わっていった。
「眠ってるわ」
 女医が告げると、今度は老女が遠海の手を引いて処置室を出た。
「あとは、お父さんから聞きなさい。全部、全部聞いて、それで、自分で決めなさい。自分の人生は自分でな」
 遠海が老女の手を握り締めると、老女の目が遠海を振り返らせた。そこには父親が立っていた。
「達也くんは、今眠ってる。心配はない」
 遠海はコクリコクリと頷いた。達也は自分を心配してここまでやってきたのだと疑わなかった。何年かぶりに感じる父の腕の温もり肩を抱かれて、遠海は病室で眠る達也の寝顔を見舞った。

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