旧堺港界わい

Keishin Honda

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 海里は呼吸を取り戻した。向井田が彼の名を呼び、何度も何度も「大丈夫」だと繰り返している。
 遠海は理解し始めていた。
「あなたもそばにきて、彼を励まして。彼はあなたの分身よ」
 向井田の言葉に、大きく見開いた遠海の瞳から、溜まりきった涙が零れ落ちた。
「あなたたちは誰よりも互いを理解してるはずよ。あなたたちは、しっかり手を繋ぎ合ってこの世に誕生したの」
 遠海は駆け寄ると海里の手を両手でしっかりと握りしめた。
 呼吸は荒かったが、海里は遠海の手のぬくもりをしっかり感じていた。うっすらと開いた目が遠海を見つめた。そして、ゆっくりと唇を動かした。
「おばあちゃんね」
 遠海はすぐに唇を読み取り、処置室を出ると、海里の祖母の腕を引っ張った。彼女のその年老いた動きは、遠海の張り詰めた力を奪うようだった。

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