「お父さ……ん」
海里の載せられた担架が遠海の前を通り過ぎていくと、もう一台続いていた。しかし、それは海里とは同じ方向には行かなかった。
「事故だ。海里が達也くんを助けた」
父の言葉に、その二台目の担架で運ばれているのが達也であることを知った。
「海里についていきなさい」
父はそう言うと、達也の担架について行った。
処置室の前で海里の祖母とともに立ち止まった遠海だったが、向井田は、中へ入るように指示した。
海里は呼吸をしていないように見えた。遠海はベッドの足元の少し離れた場所に立ち、小刻みに震えていた。錯乱して声も出ない。
しかし、目前の医師は彼を見つめるだけで、何一つ応急しようとしない。
そこへバケツに入った一杯の水を看護師が向井田に差し出すと、彼女は間を置くことなく、海里の顔目掛けてぶちまけた。
遠海が大きく引き声を上げると、海里も同じように大きく息を吸いこみ、そして咳き込んだ。
そのとき遠海の頭の中で大きく何かが破裂した。