旧堺港界わい

Keishin Honda

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「もう、そんなに経つのね。入って」
 向井田が穏やかに目の前の成長した少女を見た。
 おずおずと進み入る遠海は、やや向井田を睨みつけるような視線を向けている。
「座って」
 ソファに遠海が座ったのを見届け、向井田も自分の机を廻って向かい側に座った。緊張はしてはいたが、この医者が自分を知っているということに安堵感も覚えていた。父親とそう違わない年齢だろうか、遠海は話すタイミングを伺った。
「あの」
 口を開いたと同時に机の上の電話が鳴った。
 遠海は、電話に応対する向井田の表情を伺い立ちあがった。
「急患なの、ごめんなさい」
 向井田は白衣を羽織りながらドアに歩いた。
「一緒にいらっしゃい」
 遠海は不可解に思いながらも向井田に従い歩いた。すぐに担架の車輪のけたたましい音が響いてきた。と当時に患者が誰であるかがはっきりと判った。海里の名を呼び続けているのは、紛れもなく海里の祖母だった。そして、その担架が視界に入ってくると、遠海は父親の存在に大きく目を見開いた。

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