レスキューの男たちが数人現れたが、もはや救助できる状況ではない。
そのとき、ひとりが双眼鏡を覗きながら叫んだ。
「こっちに向かって泳いでる」
松下徹は、ただ一人呆然とその波の前に立ち尽くしていた。十八年前の記憶が嵐のように襲いかかった。あの日と全く同じ空気がそこにあった。
「仁海……」
--大丈夫、力を抜いて。
あのとき、確かにそう聞こえたような気がした。まるでイルカの背に乗ったように大波を潜り抜けていった。そのうち彼は海に抱かれているような気持ちになった。恐くはなかった。もう彼の耳には何も聞こえなくなった。