遠海の父親、松下徹だった。
「約束が違うやんか」
老女は有りっ丈の声で男を怒鳴りつけた。
「海里がどうかしたんですか?」
「あの子はまだ十八になってないで、せやのに何で」
男は、老女の向けた視線の先を見た。もう小さな点になっている。
そのとき、海水に水滴が落ちて広がった。そして人々の顔にも雫が落ちてきた。ほんの数十秒の間に雨が激しく変化し、波が大きく揺れた。
若い女がレスキューのグループを呼びに行った瞬間、老女が海に飛び込もうとした。押し寄せた波に下半身を掬われ、引きとめた男の方に凭れかかった。
「父親のくせに、まだ水が恐いんか。海里を助けて」
老女は両手を握り合わせて浜に伏した。