「探し物か?」
「あっいや、あの沖に向かって誰かが泳いでるような気がして……」
「女の子やで。泳ぎの上手い子や。堺からきたらしいねん」
海里は冗談半分に達也に言った。
すると、達也はTシャツと靴を脱ぎ、いきなり海に駆け込み泳ぎ始めた。
「ちょっと、冗談や……」
海里がそう叫んだときにはすでに達也は聞こえない距離にいた。海里も松葉杖を捨て、慌てて彼を追い、海に入った。
そのすぐ後に悲鳴を上げたのは海里の祖母だった。
「海里」
松葉杖が海水に浮かんでいる。
「誰か、誰か、海里が、海に帰ってしまう。誰か、あの子を止めて」
うろたえる老女に近所の店の若い女がやってきた。
「三島さん」
その後から低い男の声がした。
若い女の腕に支えられ、振りかえった老女は一番会いたくない男を瞳で捕らえた。