「お連れしましたよ」
看護師はドアを開けて声を掛けると、すぐに受付に戻っていった。中には遠海がひとりで入った。
机の向こうで女性がひとり遠海を見つめていた。
「あっあの向井田先生にお会いできますか?」
「私が向井田よ」
「あ……」
遠海が言葉を失っているとまた向井田が口を開いた。
「あなたも驚いたみたいね。ミユキって読むのよ。美行と書いてね」
遠海は慌てて頭を下げた。
「私も驚いた。まさかお嬢さんの方だったなんて……」
向井田の表情は、複雑であり、穏やかでもあり、そして少し曇ってもいた。遠海もまた、それが複雑でもあり、安堵感も覚えていた。