遠海は少し鼻をくずらせながら、慌てて彼女の後をついていった。家に向かっている。しかし、家には入らず通りすぎた。家の丁度裏に、洗濯でもするのだろうか、蛇口とその下に大きなたらいが置かれてあった。老女は、その大きなたらいに水を溜め始めた。蛇口から手を放して、勢いよく流れ落ちる水をただじっと見つめている。止める気配がない。
遠海もまた深刻な面持ちでその様子を目で追っている。
そして水は満タンになり、たらいから溢れたとき、ようやく水は止められた。「ここにひざまづいて、この水を見て」
老女はそう言うと、自分もたらいの横に膝をついた。
遠海が言われるままにおずおずと膝をつくと、老女は一寸の間も置かず遠海の後頭部を掴んで、一気に水の中へと遠海の顔を押し入れた。遠海は、両手をばたつかせ、外に出ようともがくが、体の重心を掛けられ両手で押さえつけられ、身動きがとれずに、ただひたすら頭を動かしている。
やがて力を失った遠海が抵抗を止めたとき、残りの息が泡となって上がってくる。ぐったりとした体は、たらいに寄りかかってまま動かなくなった。