「……休憩に出られてて……また後から行きます」
老女は、口を噤んでまた歩き始めた。
「あの……二十年近く前のこと、何でもいいんです。教えてください。おばあさんだったら、何かご存知じゃないですか? ずっとここに住んでらっしゃるんだったら……」
遠海はまた海里の祖母について歩いた。
「この海のことが知りたいんやったら、市役所に行ったらええ。地図でも観光案内でもくれるやろ」
老女は立ち止まり、そのとき初めて遠海を真っ直ぐ見つめた。
「違います。知りたいのはそんなことじゃなくて……。ホントは……自分が誰かを知りたいんです。こんなこと言ったら変に思われるかも知れないけど、私は自分が解りません。みんなと同じって思うことで安心しようと思っても、どうしようもなくて。
進路も決められないし、不安で不安で。それで」
老女は、遠海の真剣な表情を見て再び歩き出した。
「ついておいで」