旧堺港界わい

Keishin Honda

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「息がな、苦しくなるねん。心臓病かな」
 海里は、砂利を踏む音で祖母の足音が判るのか、松葉杖を支えに立ちあがった。
「ばあちゃんが来た。店番せなアカンから、また後でな。働き過ぎで死ぬわ。足悪いのに、ホンマ、きついオバァやで。ああ、今日も帰れへんねんやったら、ボクのとこ、泊まったらええで」
 海里は話さなければ子どものようだったが、本当は自分よりもずっと大人なんだと遠海は自分の幼さを恥じた。
 すれ違い様に、サボっていた言い訳をした海里に、言語道断とばかりに跳ね返す祖母がいる。しかし、孫息子が勢いよく駆けて行く姿を見守る老女の顔には、眉間の皺はなくこの上なく優しかった。
「海里くんの足、私、すぐに良くなると思うんです」
 老女が自分のそばを通ったとき、遠海が声を掛けた。
「私も同じ障害を持ってたけど、今は」
「向井田先生のところには行ったんか?」
 老女はわざと遠海を遮った。遠海は余計なことを尋ねたのだとすぐに察した。

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