旧堺港界わい

Keishin Honda

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 青碧の海は青かった。光が反射してきらきら輝いている。遠海の耳には海里の優しい声だけが響いている。
 その昔、誰もこの場所を知らなかった頃、この海の水は自然の色をしていた。青く深く誰も予測できない美しさだった。おとぎ話に出てくるような穏やかで静かな処女の水。誰も触ったことのない濁りひとつないブルーグリーン。それは、どんな優れた画家も表現できない色。何度色を重ねても無駄に等しかった。何度挑戦しても、誰一人絵に収めることはできず、決して完成することはなかった。その度、画家たちは一から描き直したものだった。
 ある日、一人の若い画家が、それはそれは美しい乙女と出会った。彼は海の妖精だと自分の目を疑った。妖精に魅せられた彼は、もう海のブルーを求めなくなった。一心に彼女を描き続けた。しかし、彼女の美は海を描くより難しかった。納得できるものはなかった。未完成の絵に、青年は無性に腹を立てた。そんなとき、妖精が言った。その絵をくださいと。彼女は青年画家の描いたその絵が大好きだった。何よりも暖かく愛情が込められていたからだ。

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