「根岸さん、オレです」
彼は、何故か声を潜めていた。
「部長がカンカンです。あの悪く思わないで……」
そう言った瞬間、別の声がした。
「根岸、お前、何処におんねん。勝手なことばかりしてたら、いい加減、クビやぞ。何十年も前の古臭い事件に拘ってもな、部数は伸びれへん」
上司の藤田がアルバイトに電話を掛けさせたようだった。
「うちはスポーツ誌ちゃうねんからな。水泳選手なんかどうでもええねん。事件じゃ、スクープ、最新のスクープじゃ」
「部長、あの……、これはスクープです。だから」
「今すぐ、帰ってけぇへんから、クビや。分かったな」
電話を一方的に掛けてきた上司は、一方的にそう言って電話を切った。
根岸は大きくため息をつくと、タバコを一本取り出し口に加えた。そして、火をつける前に、カメラバッグのポケットから古びた新聞記事を取り出した。