旧堺港界わい

Keishin Honda

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 達也はすぐに自転車に跨り、根岸とは逆の方向に走り出した。無性に腹を立てていた。根岸の態度もそうだったが、遠海が自分に何も言わず消えてしまったことに納得がいかなったのだ。自転車を漕ぎながら、「何処へ行ったのかな?」という根岸の言葉頭の中で繰り返される。信号をどう横切ったのかも判っていなかったが、走り慣れた道、誤った方向へ迷うこともなかった。丁度、駅前を通りすぎようとしたとき、彼は突然ブレーキに手を掛けた。
 四つの角の一つが剥がれてお辞儀していたが、彼の目に止まったポスターは、観光業者の淡路島の宣伝をしていた。達也が遠海に渡したチラシと同じだった。
 達也は思い立ったように、その場に自転車を放置し、駅への階段を駆け上がった。
 丁度そのとき、駅前のロータリーに一台のバスが到着した。数人の乗客の後から、根岸が降りてきた。駅へのエスカレータを上がろうとしたとき、根岸の携帯電話のベルが鳴った。後ろからきた学生に道を譲り、エスカレータには乗らず、相手の番号を見た。半年前に入ったアルバイトの大学生からだった。

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