旧堺港界わい

Keishin Honda

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 校門のそばにカメラの男が立っていたが、達也は視界に入れることなく門を一気に潜り抜けた。室内プールと更衣室には鍵が掛けられていて、中に人がいる気配はなかった。
 校庭では野球部と陸上部が練習しているだけだった。
 自転車を押して門を出ようとすると、まだ男が立っていた。
「やあ」
 遠海に付きまとったカメラマン、根岸吾朗だった。
「またか……」
 達也は彼を疎ましく思ったが、ふと顔を上げ、振りかえった。
「もしかして、朝早くからここにおった?」
「ああ、七時から。君らは朝練とかもするんだろうと思ってね」
「遠海は現れた?」
「いや、今日はまだ」
「そやろな。今日は練習ないで」
 達也はわざと言葉を誘導した。
「君は彼女を探しにきたのかな?」
 誘導したように思ったが、男は達也の様子を読み取っていた。
「な、何、言うてんねん、オレはちょっと忘れもんがあってやな……」
 咄嗟に取り繕った。が、内心、男の視線に不安を憶えていた。
「いなくなったのかい?」
 そのまま立ち去りたかったが、達也はもう一度振りかえった。根岸は、何も言わな
い十八歳の少年に微妙な笑顔を浮かべた。
「何処へ行ったのかな?」
 そう言うと、その日、先にその場を去ったのは根岸の方だった。

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