旧堺港界わい

Keishin Honda

   ※カテゴリーのタイトル別に1から内容が続いています。

29

 インターホンの向こうに女の声がする。遠海の継母だ。特に遠海が彼女の悪口を言っているわけではなかったし、彼女が遠海に辛く当たっている風でもないだろう。が、何故か、達也は彼女に構えてしまう傾向があった。威圧感があるというのでもない。むしろ、親切そうだ。
「遠海ちゃんなら、朝早く出かけたみたい。練習じゃない?」
 インターホン越しではなく、わざわざ外まで出向いて、応対するところも彼女らしい。
「あっ、そうです。今日、オレ、遅刻してしまって」
 達也は作り笑いを浮かべて嘘をついた。その日は練習はない。彼自身、嘘をついた理由も判らなかった。
 いったん家に戻り、自転車を取って達也は学校に向かった。何かがあったとき、遠海はいつもプールに潜る癖があったからだ。約束を学校と間違えたのか、それともすっかり忘れているのか、達也はわがままで手の掛かる妹を迎えに行くように装っていたが、ペダルを漕ぐ足が内心を物語っていた。心配で仕方がない。自然にスピードが上がった。

当サイトに掲載の記事・写真・図表など転載を禁止します。
Copyright (c) 2020 KSHD All Rights Reserved.