旧堺港界わい

Keishin Honda

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「まったく、愛想のないおばぁやで、ちょっと待っててな」
 海里が呆れて呟き、また奥へ入っていくと、遠海は彼女を追うように駆け出した。
「あの、すみません」
 遠海は老女を引きとめた。
「ひとつ、お伺いしてもいいですか? あの……」
 老女は遠海に背を向けたまま足を止めた。
「二十年近く前に、この付近で研究をしていた大学生をご存知じゃないですか?」
 老女は何も言わずまた足を踏み出した。もちろん遠海もついて歩いた。
「あの、海水の研究をしてたらしいんです。背が高くて……あの……」
 老女は必死で食いついてくる少女に根負けしたのか、立ち止まると右手に持っていたビニールを地面に置くと、通りの向こうを指差した。
「通りを渡って、食堂とタバコ屋の間の道を真っ直ぐ行くと病院があるから、そこの向井田っていう先生に聞いたらええ……」
 老女はそう言うとまたビニール袋を手に歩き出した。今度は遠海は後を追わなかった。

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