「ばあちゃん、出かけてるわ。その辺座って待ってて、着替えてくるから」
松葉杖を器用に動かして、少年は奥の部屋へと入っていった。遠海は入り口に腰を掛けて辺りに視線を動かしていた。
海辺を少し上がったところには、何軒か家が並んでいたが、間の何軒かはすでに立ち退いてしまったようだ。海里の家は少し外れにあって、付近の者はみな自宅の前に店を出していたが、海水浴に向いている砂浜からは離れている海里たちは、シーズン中はそちらの場所に出向いて店を出さなければならなかった。
少しして、外で砂利を踏みしめる音が聞こえた。遠海が顔を入り口に向けると、険しい顔つきの老女が立っていた。
遠海は立ちあがって挨拶をした。
老女はしばらく立ち尽くしたかと思うと、遠海からさっと視線を外しつかつかと中に入ってきた。
「あ、あの、毛布とそれとおにぎりありがとうございました。海里くんから……」