松葉杖の生活は小学校に上がるまで続いた。いつかスイミングスクールのプールに浮かんでいる方が楽だと気づいた。
遠海の予想通り、海に入っていった彼はずんずん泳ぎ続けた。
そして、遠海は確信していた。彼もまた自分のように松葉杖を手放し、ひとりで歩ける日が遠くないと。
少年は、十メートルほどで円を描くように一周し引き返してきた。遠海は思わず毛布を手に近づいた。そして、彼の松葉杖を、一本、また一本、拾い上げた。彼が上がってくるのを迎えるように。彼は遠海を見つけて笑っている。
「自殺すると思った?」
彼の第一声に遠海は首を横に振り、片方の杖を頼りに立ち上がる彼に毛布を掛けてやった。Tシャツとデニムの膝丈のパンツがずぶ濡れだった。