旧堺港界わい

Keishin Honda

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19

 波が穏やかに輝いていた。
 遠海は海辺で眠ってしまっていたのだ。毛布を遠海に被せた人間がいたことも気づかずに。
 午前三時前まではまだ海を見つめていた。あくびをしたき、あるいは目を擦ったとき、すでに横たわってしまっていたのかもしれないと思った。
 毛布は真新しかった。海の家の誰かが掛けてくれたのだろうか。遠海は丁寧にそれを畳むと、砂を掃い自分のリュックサックの上に載せた。そして、海の水でさっと顔を濡らした。
 バシャという音がして、反射的にそちらを見ると、松葉杖の小さな男の子が倒れて水に半分浸かっていた。遠海は慌てて立ち上がったが、二、三歩踏み出したところで、足を止めた。彼はそのまま松葉杖放ったまま、水の中へと入っていった。泳ぐつもりなのだと遠海は咄嗟に感じた。少年が溺れるとは何故か思えなかったのだ。例え足が不自由でも、彼は水の中の方が自由でいられるのだと勝手に考えていた。遠海は彼の中に自分を映していた。

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