旧堺港界わい

Keishin Honda

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「行ったらええと思うで。お前の人生や。ラッキーやんか。進路、決めよう思て、大学行っても卒業までに見つかれへんヤツも多いみたいや。お前は、こんな年で自分でやりたいこと解ってる。アカンかっても、自分でどうにかしたらええ。せやろ?」
 伸哉は、二つしか違わない兄の説教を黙って聞いていた。
「お兄、ありがとう。……なぁ、一万円貸してくれへんか?」
「一万円?」
「新幹線の切符買うねん」
「お前、アホやな。新幹線代もないのに東京行ける思てんのか?」
「せやから貸してって言うるんやろ」
 達也は呆れて、大きく息を吐き出した。
「ほんだら、頼むで。オカンに言うてな。一万円も頼んでや。お兄、ホンマ頼むで」
 伸哉は、いつまでもそう繰り返しながら遠ざかっていった。
「オカンが、お前のために積み立てしてるの、持たしてくれるわ、心配せんでも……」
 達也は口先で小さく呟いた。
 そうしている間も、遠海は家から出てくる気配はなかった。時計はもう十時半を過ぎている。

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