旧堺港界わい

Keishin Honda

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 公園のベンチで十時、確かに昨日そう約束した。達也はレンガ色のゲートの陰に隠れて通りを見た。すぐに遠海の家が見える。そわそわして家から出てくるのを見張っていたと思われたくはない。いつも約束の時間より十分前に到着する達也だったが、遠海がいつも十分後に来るわけではない。遠海はオンタイム派なのだ。もう一度腕時計に目をやると、約束の時間より三十分が過ぎていた。達也は納得がいかなかった。
 公園内の体育館のスポーツクラブにやってくる主婦たちが次々にゲートをくぐって行く。
「お兄、何やってんねん?」
 嫌な声がした。弟の伸哉だった。ギターを肩に掛けて両手をズボンのポケットに入れている。
「何や、お前こそ、何やってんねん?」
 少しおたおたして兄が尋ねる。
「オレは、今から練習や」
 伸哉は目を扇形にして兄を見る。
「早よ、行け」
「また遠海ちゃん、待ってんねんやろ。……なぁ、オレな、やっぱり東京行きたいねん。お兄からもオカンに言うてくれへんか」
 伸哉を羨ましいと思っていたのは遠海だけではなかった。この達也でさえ、伸哉を眩しく思っていた。

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