旧堺港界わい

Keishin Honda

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 それに海洋学の研究者である父親も、遠海を海へ連れていくことはなかった。大学生の頃、この青碧の海付近で研究をしていたというのを知ったのも父本人の口からではない。学生時代のことをも封印してしまっている。だから遠海は、ここを訪れることで何かが見えると信じていた。
 青碧駅から海岸までは少し距離があったが、歩けないほどではない。何人か一緒に降りた乗客も途中で見えなくなり、遠海はその暗い道をひたすら西へ向かってひとりで歩いた。判っていることは、突き当たれば海だということ。しかし先へ行くほどに通りが淋しくなっていった。道に立つ電灯がぽつりぽつりと照らしてはいるが、頼りは星の明かりだけだ。
 こんな時間に海に行って何ができるだろうか。達也が知ったら、大阪弁で人をこき下ろして笑い転げるだろう。いや、達也は心配するに違いない。しかし遠海が行くところはそこしかなかった。遠海が考えられる場所はそこしかなかったのだ。

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