旧堺港界わい

Keishin Honda

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 自分が本当は誰なのか。自分が他とは違うということを、遠海はとうに気付いていた。
 彼女が知りたがればがるほど、父親は隠そうとした。この十七年半、考えなかったことはなかった。母親が誰なのかも。父親を憎んだことは一度もない。ただ隠し続ける彼が不審に思えてならなかった。
「お前の母親は故郷の海に帰った」
 そんな言葉で、いつも父親が口を噤むのは、最愛の人を海で失ったためだ。遠海は、父が今も母親だけを思っていると信じたかった。二年前再婚してからすっかり変わってしまったが、それは再婚相手とその娘を気遣ってのこと、真実は別の場所にあると疑わうことはなかった。
 どのくらいの時間が過ぎた頃だろうか、気が付くと車掌が「青碧」を告げていた。遠海がここを訪れるのはこれが初めてだった。年中プールに浸かっている彼女は、海に行くことすらなかったのだ。

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