「探しに行きます。本当の自分を」
遠海は、「松下徹」と書かれた表札に向かってそう呟き、歩いて駅へと向かった。
駅は、歩いて十分と掛からない位置にある。迷うことなく南行きの電車に乗り込んだ。まだ、通勤帰りの人でいっぱいだ。彼らを見ていると、自分が怯んでしまうような気がして、途中の駅で急行待ちしている各駅停車に乗り換え、わざと人の少ない車両に歩いた。
外はもう暗い。これからどうしようと言うのだ。明日の朝一番に出ればよかった、遠海の頭に後悔の念が過ぎった。幼くも意思的な目元を顰めた。もう挫けている。子どもの頃はもっと勇気があった。松葉杖なしに歩けなかった足の不自由さも訓練で克服した。いつからこんなに自信のない人間になってしまったのだろうか、苛々は駅を過ぎる毎に積み重なっていった。泳ぐことで忘れさせていただけで、本当は不可解なことを知りたくて仕方がなかった。