「あのバカが、高校退学寸前やねん」
「ノブちゃん、どうしたの?」
「仲間と東京に行くって言うてる。オカンは、卒業してからにせぇって言うてるけど、アイツは決めたら、聞けへんヤツから」
弟の伸哉は、学校の教師に嫌われているが、本当は優しい少年だ。自分の信念をしっかり持っていて、澄んだ瞳をキラキラさせている。
「遠海ちゃん、オレらが成功したら、サインしたるからな」
遠海は、男の子は達也や伸哉のように、いつも前向きなものだと信じていた。そして、女の子はいつも後ろばかり振り返るものなのだと思えて仕方がなかった。
「明日、相談しよ。公園で、十時な」
達也はそう言って、遠海の家の前からほんの十数メートルだけ自転車にまたがって帰っていった。遠海は、いつも一緒にいる彼がどんどん大きくなって、自分から離れていってしまうような不安をいつも抱いていた。