旧堺港界わい

Keishin Honda

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 遠海は小学三年生の時、大学教授の父親とこの堺という町に越してきた。以来、達也とは細い道を隔てて三軒向こうの隣人となった。
「いつ見ても、お前の家、ええよな。今風で。オレも洋間の自分の部屋欲しいわ」
 達也は、いつも二階の窓を見上げて言う。達也も二階建ての一軒家に住んではいたが、祖父の代に建て直した家で、もうそろそろ建て替えの頃なのだ。
「あたしは、たっちゃんの家の方がいいな。人が住んでる感じがする」
「何、言うてんねん。やかましいだけや。上品さの欠片もないヤツらやで」
 達也は家族のことをそんな風に言うが、遠海には羨ましい家族らしい家族だった。おおらかで話好きの母親は、この息子のことを泳ぐしかの能がないと笑っているが、本当は自慢に思っている。父親は豪快な彼女の尻に敷かれてニコニコ笑っているだけ。それでも笑っていられるのは幸福な証拠。それに二つ下の弟は、タバコを吸っては叱られて、耳のピアスが増えるたびに叱られて、母親に褒められたことがないとふて腐れるが、ロックバンドで大成すると信じている。それが遠海には理想の家族なのだ。

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