「松下遠海さんだね。君をずっと捜してた。私は、東京グラフのカメラマンで……」
男は、ジャンパーのポケットを探って、名刺を取り出し、遠海に差し出した。
「根岸、根岸吾朗っていうんだ。取材させて欲しいんだ」
達也は、俯いている遠海の腕を引っ張って歩き始めた。
「学校の水泳部の顧問に通してからにしてください」
男は、名刺を差し出したままついてきた。
「おっさんも、しつこいなぁ」
達也は、遠海を自転車の後ろに積んで、一気にこぎ出した。しばらく男は走って追いかけてきたが信号で立ち止まった。
「何や、あのおっさん……」
本当なら、遠見に取材が殺到してもおかしくないのだ。無言でいる遠見を背に感じながら、達也は考えずにはいられなかった。遠見が大会で仮病の振りをしなければ、こんな風に二人乗りをして、下校することもなかっただろう。