それでも男は同じ体勢のまま、瞬きもせずにただ一心にレンズの向こうを見つめていた。
やがて水面の揺れがほぼなくなった瞬間、少女の身体が水面にぼわっと浮き上がった。動かない。
「しまった!」
男は顔を顰め、ようやくカメラを下ろした。当てが外れて、慌ててプールに駆け寄ると、うつ伏した少女の両頬の辺りに、再び小さな泡がボコボコ上がってきた。カメラを持つ手が震えた。足も動かない。
扉に何かが当たったような音がして、男は我に返り、後ずさりながら、再びロッカーの陰へと隠れた。しかし、視線は少女から離すことができずにいた。
少女は、両腕を広げ水底に足を付けた。そして、ザバッと顔を上げるとゴボゴボと水を吐き出し、息を大きく吸いこんだ拍子に激しく咳き込んだ。
「遠海、コーラでよかったんか?」
扉が開くとともに、達也の声が響いた。
遠海は、プールの中央から呼吸を整えながら無表情で振り返った。