旧堺港界わい

Keishin Honda

   ※カテゴリーのタイトル別に1から内容が続いています。

2

「お前の泳ぎを真似ることは、オレにはでけへん。参った」
 達也はプールサイドに上がると、飲み物を買ってくると言って、タオルを腰に巻いて扉を開けて出ていった。遠海はクスッと笑って、また水中を泳ぎ始めた。
 五〇メートル、八コースのその室内プールには確かに遠海がいたが、水面を見ていると誰もいないように見えた。水面を揺らさない上に、長時間の潜水も平気だったからだ。
 数分が過ぎて、再び扉が開いた時、入ってきたのは達也ではなかった。髪に白髪が混ざった四十半ばの男。首に提げたカメラ、その望遠レンズの形から、彼がカメラマンであることは一目で理解できた。周囲を気にしながら入っきたかと思うと、掃除道具のロッカーの陰に隠れた。
 水中にいる遠海は、気がつく素振りはなかった。プールの丁度中央辺りで、カバのように水面に目を出すと、大きく口で息をする様子もなくまた潜ってしまった。
 その直後のこと、異変は起こった。

当サイトに掲載の記事・写真・図表など転載を禁止します。
Copyright (c) 2020 KSHD All Rights Reserved.