旧堺港界わい

Keishin Honda

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22

 列車は見飽きた景色に突入した。家へ帰ることが、こんなにも懐かしく、そして安堵を覚えたことはない。車窓にくたびれた自分の姿が映る時間になる前でよかった。太郎とも視線を合わせたくない。

 列車を降り改札を出ると、父が迎えにきていた。太郎は気を利かせて、いそいそと帰っていった。
「お父さん、どうしたん?」
「散歩、散歩」
 父は目を合わさず、ただそう言った。そして、家の前にたどり着くまで一言も話さなかった。
 私も複雑な気持ちが交差して、何を話していいのか判らなかった。
「お父さん……」
 そう切り出した瞬間、父も口を開いた。
「母さんの……好きだった人は、男前やったか……?」
 そしてにっこり笑った。
 張り詰めていたものがすぅーっと抜けていくようだった。
「お父さんの方が、ほんの、ほんのちょっとだけ、男前やと思う」
 私もにっこり笑った。
                                                                                            了

 

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