顔を上げると、目の前にいたのは、太郎だった。ずっと堺駅で待っていたのだ。つい、この勢いに流されそうになった。「オレはどうかな?」とばかりに目を白黒させている。
「違う気がする」
私の確たる拒絶に、彼は泣く振りをしてうな垂れた。太郎は私を笑わせる。
「ホンマに嫌やったら言うてくれたらええで」
このセリフの度に、何故自分から諦めないのか疑問に思う。潔くなく思えて仕方がない。
「潔くないねん。カッコ悪いとこは、みんな見せたから気になれへん。オレ、ホンマは他の人の前ではカッコええねんで。カッコ悪いとこなんか見せへんから。何で好きな人の前で、カッコよくでけへんのか、何回も何回も考えた」
私は彼の続きを待っていた。何を言うのか楽しみになってきたのだ。
「カッコよくでけへんから、カッコ悪いとこ好きになってみたらどうかな?」
抜け抜けと言った。
「何て提案するんだろ」
私は呆れて見せた。
「嫌やったら言うてくれたらええよ」
彼は繰り返した。
何故か不思議な安堵に包まれていた。嫌だと即答しない私は、卑怯に思えたが、嫌ではないことをずっと前から知っていた。きっと彼がいなくなって困るのは私の方だ。