旧堺港界わい

Keishin Honda

   ※カテゴリーのタイトル別に1から内容が続いています。

15

私もそう思いました。だって、四十年以上も前に別れたあの人と、母がまた再会するとは思ってもいないでしょう。ましてあの人はイギリスの人で、母と同じように家庭がありましたから。それに伝統のある家柄の人で、とんでもないお金持ちだったし、母とのことなど、数ある恋愛のひとつに過ぎなかったはずです。
 あの人が神戸に身を置いたのは、高校一年から大学院を卒業するまでの九年間です。家の事業を日本に拡大して、彼の父親が日本に滞在したその期間です。母が彼と出会って恋に落ちたのは、その間の後半の数年のことだと思います。
 あなたは憶えているかどうかわかりませんが、私は小学生の頃、一度、彼に会ったことがあるのです。青い目で、栗色の髪をした背の高い典型的な外国人でした。母は口止めはしなかったけれ ど、私は家族には話さなかった。そのことが私の胸の中にあって、ずっとつきまとっていました。ただ優しい笑顔を向けただけのことだったのに、短大を出た後もまだ、あの外国人が許せなかった。

当サイトに掲載の記事・写真・図表など転載を禁止します。
Copyright (c) 2020 KSHD All Rights Reserved.