旧堺港界わい

Keishin Honda

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 私は初めて母の気持ちになって物事を考えた。恥ずかしいことに母の気持ちを考えたことがなかったのだ。母はいつもそこにいて当然の人だった。個人の人格など考えたことがない。全く失礼な話だ。
 いつだったか、 私が生まれる前のアルバムの写真を見たとき、不思議な感覚に陥ったことがあった。小さい兄が二人そばにいて、自分だけがそこにいない。この人たちは私を知らなくて、私も当然知らない。当然のことでありながら、そう思うことが不思議でならなかった。私の生まれる前の世界を知っている家族が家族でなく思えたりした。
 今から会う文通相手の女性は、その頃の母を知っているのだろうか。正確にはその頃の母の内面を一番知る人なのかも知れない。
 堺駅のホームに降り立ったとき、私はふと足を止めた。母はどうしてこんな頼みごとを私にしたのだろうか。
 葬式に呼ばずに形見分けをしたい相手を訪ねる。家族のほかの誰でもなく、娘の私に依頼した。母は私に何かを伝えようとしているのではないか。突然、重要な役割を仰せつかった気になった。母が私に懇願した最初で最後のこと。
 一体、何を伝えたいのだろうか。

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